1. はじめに
近年、AI(人工知能)技術の発展は目覚ましく、私たちの生活を大きく変えつつあります。その発展の裏には、AIの「頭脳」とも言えるGPU(Graphics Processing Unit)の進化があります。そして、そのGPUの性能を最大限に引き出すために重要な役割を果たしているのが、今回解説する「HBM(High Bandwidth Memory)」です。
HBMは、その名の通り「高帯域幅」を実現したメモリ技術です。AI開発においては、大量のデータを高速に処理することが求められます。HBMは、従来のメモリ技術に比べて圧倒的に広い帯域幅(データの転送速度)を持ち、AIの学習や推論の高速化に大きく貢献しています。
この記事では、メモリの基礎知識から始め、HBMの仕組み、メリット・デメリット、AI開発における重要性、そして将来展望まで、初心者の方にも分かりやすく、かつ徹底的に解説していきます。さらにHBMを開発している主要企業についても説明し、メモリ半導体業界の動向にも迫ります。
この記事を通して、以下の内容を学ぶことができます。
- コンピュータにおけるメモリの役割
- HBM登場の背景と従来のメモリ技術の限界
- HBMの仕組みと特徴
- AI開発におけるHBMの重要性
- HBMを採用したGPU製品例
- HBMを開発している主要企業
- HBMの競合技術と将来展望
この記事の対象読者は、HBMについて詳しく知りたい初心者の方、および、AI開発とメモリ技術の関係性に興味がある方です。できるだけ専門用語を避け、図表も交えながら分かりやすく説明していきますので、ぜひ最後までお付き合いください!
2. メモリの基礎知識 – コンピュータにおけるメモリの役割
HBMについて詳しく見ていく前に、まずはコンピュータにおける「メモリ」の役割について、基本的なところから確認しておきましょう。
2.1 メモリとは? – データを一時的に保存する場所
コンピュータにおけるメモリとは、データを一時的に保存する装置のことです。よく、人間の「机の上の作業スペース」に例えられます。
例えば、あなたがレポートを書くとき、必要な資料(データ)を本棚(ストレージ)から取り出して、机の上(メモリ)に広げて作業しますよね。机の上が広ければ広いほど、たくさんの資料を一度に広げることができ、作業が効率的に進められます。
コンピュータも同じで、メモリの容量が大きいほど、多くのデータを一時的に保存しておくことができ、処理を高速に行うことができます。
メモリには、DRAM(ディーラム) や SRAM(エスラム) など、いくつかの種類があります。
- DRAM (Dynamic Random Access Memory):主に「メインメモリ」として使われるメモリです。比較的安価で大容量化しやすいですが、SRAMに比べて速度は遅いです。
- SRAM (Static Random Access Memory):主にCPUの「キャッシュメモリ」として使われるメモリです。DRAMに比べて高速ですが、高価で大容量化しにくいです。
HBMは、このDRAMの一種です。
2.2 メモリ階層 – 速度と容量のトレードオフ
コンピュータの中では、メモリは階層構造をなしています。これを「メモリ階層」と呼びます。
メモリ階層は、主に以下の要素で構成されます。
- レジスタ:CPU内部にあり、最も高速にアクセスできる。容量は非常に小さい。
- キャッシュメモリ:CPU内部または近くにあり、レジスタの次に高速。主にSRAMが使われる。容量は小さい。
- メインメモリ:CPUの外部にあり、キャッシュメモリよりも低速だが大容量。主にDRAMが使われる。
- ストレージ:HDDやSSDなど、電源を切ってもデータが保持される。メモリ階層の中では最も低速だが、大容量。
以下の図は、メモリ階層のイメージです。
[メモリ階層のイメージ図。レジスタ、キャッシュ、メインメモリ、ストレージの関係性を、速度と容量の観点から図示する。]メモリ階層では、速度と容量(およびコスト)はトレードオフの関係にあります。つまり、高速なメモリほど容量が小さく(高価)、大容量なメモリほど速度が遅く(安価)なる傾向があります。
コンピュータは、このメモリ階層をうまく利用することで、高速かつ効率的な処理を実現しています。
2.3 メモリ帯域幅とレイテンシ – メモリ性能の指標
メモリの性能を表す指標として、メモリ帯域幅とメモリレイテンシが重要です。
- メモリ帯域幅:単位時間あたりに転送できるデータ量のことです。道路の「車線数」に例えられ、車線数が多ければ多いほど、一度に多くの車(データ)を通すことができます。一般的に、GB/s(ギガバイト毎秒)という単位で表されます。
- メモリレイテンシ:メモリにアクセスを要求してから、実際にデータが読み書きされるまでの遅延時間のことです。道路の「信号待ち時間」に例えられ、信号が少ないほど、車(データ)は目的地に早く到着できます。一般的に、ns(ナノ秒)という単位で表されます。
AIの処理、特に深層学習では、大量のデータを頻繁にメモリとやり取りする必要があります。そのため、高いメモリ帯域幅と低いメモリレイテンシが求められます。
3. HBM登場の背景 – 従来のメモリ技術とその限界
では、なぜHBMのような新しいメモリ技術が登場したのでしょうか?その背景には、従来のメモリ技術の限界がありました。
3.1 GDDRメモリ – GPUで使われてきたメモリ
これまで、GPUには主に「GDDR(Graphics Double Data Rate)」メモリが使われてきました。
- GDDRメモリとは?:グラフィックス処理のために開発されたメモリで、DRAMの一種です。高い帯域幅を持つことが特徴です。
GDDRメモリは、GDDR5、GDDR6といったように、世代ごとに進化してきました。世代が新しくなるにつれて、帯域幅が向上し、GPUの性能向上に貢献してきました。
3.2 メモリ帯域幅のボトルネック – 増大するデータ量への対応
しかし、GPUの性能が向上するにつれて、メモリ帯域幅がボトルネックとなってきました。
特に、AIの分野では、モデルの規模が大きくなり、扱うデータ量も増大しています。例えば、近年の大規模言語モデルでは、パラメータ数が数千億から数兆にも達するものもあります。これらの膨大なパラメータを格納し、高速に処理するためには、従来のメモリ技術では帯域幅が不足するようになってきたのです。
3.3 消費電力と実装面積の課題
従来のメモリ技術では、帯域幅を向上させようとすると、消費電力と実装面積が大きくなるという課題もありました。
例えば、GDDRメモリは、チップの外部に多くのメモリチップを配置し、それぞれを接続する必要があります。そのため、基板上の広い面積を占有し、配線も複雑になるため、消費電力も大きくなります。
特に、データセンターでは、消費電力の増大は、運用コストの増加や環境問題にもつながります。また、モバイルデバイスでは、バッテリー駆動時間に影響を与えます。
4. HBMとは? – 高帯域幅メモリの革新
このような背景から登場したのが、「HBM(High Bandwidth Memory)」です。HBMは、従来のメモリ技術の課題を解決し、AI時代に求められる高性能なメモリとして注目されています。
4.1 HBMの概要 – 3D積層技術による広帯域化
HBMは、3D積層技術を用いて、メモリ帯域幅を飛躍的に向上させたメモリ技術です。その名の通り、「High Bandwidth Memory(高帯域幅メモリ)」を実現しています。
4.2 3D積層技術 – TSVによる垂直接続
HBMの最大の特徴は、複数のメモリダイを垂直方向に積み重ねた「3D積層技術」です。
従来のメモリチップが、基板上に平面的に配置されていたのに対し、HBMでは、複数のメモリダイを積み重ね、それらを「TSV(Through Silicon Via)」と呼ばれる技術で接続しています。
- TSV(Through Silicon Via)とは?:シリコン貫通電極のことで、積層されたチップを垂直方向に接続する技術です。チップに微細な穴を開け、そこに導電性材料を充填することで、チップ間の電気的な接続を実現します。
以下の図は、HBMの3D積層構造のイメージです。
[HBMの3D積層構造のイメージ図。複数のメモリダイがTSVによって垂直に接続されている様子を描く。]TSVを使うことで、チップ間の配線長を大幅に短縮でき、高速なデータ転送が可能になります。
4.3 インターポーザ – チップ間の高速接続
HBMでは、積層されたメモリダイとGPUなどのロジックダイを接続するために、「インターポーザ」と呼ばれるシリコン基板が用いられます。
- インターポーザとは?:チップ間を接続するための、配線が施された基板のことです。
インターポーザ上に、メモリダイとロジックダイを並べて配置し、それぞれをインターポーザ上の配線で接続します。これにより、従来のパッケージ基板を使うよりも、高速かつ低消費電力な接続を実現できます。
[インターポーザを用いたHBMの接続イメージ図。インターポーザ上にメモリダイとロジックダイが配置され、接続されている様子を描く。]インターポーザには、主にシリコンが用いられますが(シリコンインターポーザ)、有機材料を用いた有機インターポーザなども開発されています。
4.4 HBMの規格 – JEDECによる標準化
HBMの規格は、「JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)」という半導体技術の標準化団体によって策定されています。
これまでに、以下の規格が策定されています。
規格 | 帯域幅 (GB/s) | 容量 (GB/ダイ) | ピン数 | 最初の製品 |
---|---|---|---|---|
HBM | 128 – 256 | 1 | 1024 | 2015 |
HBM2 | 256 – 512 | 2 – 8 | 1024 | 2016 |
HBM2E | 307 – 460 | 4 – 24 | 1024 | 2018 |
HBM3 | 460 – 819 | 8 – 64 | 1024 | 2022 |
HBM3E | 900以上 | 24以上 | 1024 | 2024 |
- JEDECとは?:電子部品の標準化を行う業界団体です。メモリ規格(DDR、LPDDR、GDDRなど)の策定も行っています。
各規格の主な違いは、帯域幅、容量、ピン数などです。新しい規格ほど、高性能化が進んでいます。
4.5 HBMのメリット – 広帯域、低消費電力、小型化
HBMは、従来のメモリ技術(例えばGDDR)と比較して、以下のようなメリットがあります。
- 広帯域幅:3D積層技術とTSVにより、非常に広い帯域幅を実現しています。
- 低消費電力:チップ間の接続距離が短いため、データの送受信に必要な電力を削減できます。
- 小型化:複数のメモリダイを積層することで、実装面積を小さくできます。
これらのメリットは、AIやHPCなど、大量のデータを高速に処理する必要がある分野において、大きな効果を発揮します。
4.6 HBMのデメリット – コストと製造の難しさ
一方、HBMにはデメリットもあります。
- コストが高い:3D積層技術やインターポーザなど、高度な技術が用いられているため、製造コストが高くなります。
- 製造が難しい:TSVの形成や、複数のチップの接続など、製造プロセスが複雑です。
ただし、近年は、HBMの量産化が進み、製造技術も向上しているため、徐々にコスト低減が進んでいます。
5. HBMの構造と仕組み – 詳細解説
ここでは、HBMの構造と仕組みについて、さらに詳しく見ていきましょう。
5.1 HBMのダイ構造 – 複数のメモリダイを積層
HBMは、複数の「メモリダイ」と、それらを制御する「ベースダイ(ロジックダイ)」を積層した構造になっています。
- メモリダイ:DRAMのメモリセルアレイ(データを記憶する部分)が形成されたチップです。
- ベースダイ(ロジックダイ):メモリダイを制御する回路や、インターフェース回路などが形成されたチップです。
メモリダイは、TSVによって垂直方向に接続され、ベースダイと接続されます。
以下の図は、HBMのダイ構造のイメージです。
[HBMのダイ構造のイメージ図。メモリダイ、ベースダイ、TSVの関係性を図解する。]5.2 チャネルとバンク – 並列アクセスによる高速化
HBMでは、メモリダイは複数の「チャネル」に分割されています。各チャネルは、独立して動作することができ、並列にアクセスすることが可能です。
さらに、各チャネルは、複数の「バンク」と呼ばれる領域に分割されています。バンクは、メモリセルアレイの単位で、データの読み書きはバンク単位で行われます。
- チャネルとは?:メモリダイにアクセスするための論理的な経路のことです。
- バンクとは?:メモリセルアレイの単位で、データの読み書きが行われる領域です。
チャネルとバンクを並列に動作させることで、高速なデータアクセスを実現しています。
5.3 HBMのインターフェース – ワイドな接続幅
HBMでは、メモリダイとロジックダイ(またはインターポーザ)との間のインターフェースに、非常に広い接続幅(例えば、1024ビット)が用いられています。
- インターフェースとは?:異なるデバイス間でデータをやり取りするための接点のことです。
従来のメモリ技術(例えば、GDDR)では、数十ビットから数百ビット程度の接続幅でした。HBMでは、接続幅を大幅に広げることで、一度に大量のデータを転送できるようにし、帯域幅を向上させています。
5.4 2.5Dパッケージングと3Dパッケージング
HBMでは、「2.5Dパッケージング」または「3Dパッケージング」と呼ばれる技術が用いられています。
- 2.5Dパッケージング:複数のチップをインターポーザ上に並べて配置し、インターポーザを介して接続する技術です。
- 3Dパッケージング:複数のチップを垂直方向に積層し、TSVで接続する技術です。
HBMでは、メモリダイを積層するために3Dパッケージングが用いられ、メモリダイとロジックダイを接続するために2.5Dパッケージング(インターポーザを使用)が用いられるのが一般的です。
以下の図は、2.5Dパッケージングと3Dパッケージングのイメージです。
[2.5Dパッケージングと3Dパッケージングのイメージ図。それぞれの技術の特徴と違いを図解する。]6. AI開発におけるHBMの重要性
HBMは、特にAI開発において、その真価を発揮します。ここでは、AI開発におけるHBMの重要性について解説します。
6.1 大規模AIモデルのトレーニング – 膨大なパラメータの格納
近年のAIモデル、特に深層学習モデルは、大規模化が進んでいます。例えば、GPT-3などの大規模言語モデルでは、パラメータ数が数千億から数兆にも達します。
AIモデルのトレーニング(学習)では、これらの膨大なパラメータをメモリ上に格納し、高速にアクセスする必要があります。HBMは、その広い帯域幅と大容量によって、大規模AIモデルのトレーニングを可能にします。
6.2 高速なデータアクセス – 学習時間の短縮
AIモデルのトレーニングでは、大量のデータを繰り返しメモリとやり取りしながら、パラメータを更新していきます。HBMの広い帯域幅は、このデータアクセスを高速化し、学習時間を大幅に短縮することができます。
例えば、1TBのデータをメモリから読み出す場合を考えてみましょう。
- 帯域幅が100GB/sのメモリの場合:約10秒
- 帯域幅が500GB/sのメモリの場合:約2秒
このように、帯域幅が広いほど、データアクセスにかかる時間が短くなります。AIの学習では、このようなデータアクセスが何度も繰り返されるため、帯域幅の違いは、学習時間全体に大きな影響を与えます。
6.3 推論処理の高速化 – リアルタイムAIの実現
AIモデルの「推論」処理、つまり、学習済みモデルを使って新しいデータに対して予測を行う処理においても、HBMは重要です。
- 推論とは?:学習済みのAIモデルを使って、新しいデータに対して予測を行うことです。例えば、画像認識モデルが、写真に写っている物体を識別するような処理です。
特に、自動運転やロボティクスなど、リアルタイム性が求められる用途では、推論処理を高速に行う必要があります。HBMは、その広い帯域幅によって、推論処理の高速化に貢献し、リアルタイムAIの実現を支えています。
6.4 消費電力の削減 – AI開発の効率化
HBMは、従来のメモリ技術に比べて、消費電力が低いことも大きなメリットです。
AIの学習や推論には、膨大な計算リソースが必要であり、それに伴って消費電力も大きくなります。特に、データセンターでは、AI処理による消費電力の増大が、運用コストの増加や環境問題につながっています。
HBMは、その低消費電力性によって、AI開発の効率化に貢献し、データセンターの省エネ化にも寄与することが期待されています。
7. HBMを採用したGPUと製品例
ここでは、実際にHBMを採用したGPU製品の例を見ていきましょう。
7.1 NVIDIAのGPU – H100、A100など
NVIDIAは、データセンター向けのGPUに、いち早くHBMを採用してきました。
- NVIDIA A100:2020年に発表されたデータセンター向けGPU。HBM2eを採用し、40GBまたは80GBのメモリ容量を搭載。
- NVIDIA H100:2022年に発表されたデータセンター向けGPU。HBM3を採用し、80GBのメモリ容量を搭載。
これらのGPUは、AIの学習や推論、HPCなどの用途で、世界中の企業や研究機関で利用されています。
7.2 AMDのGPU – Instinct MIシリーズなど
AMDも、データセンター向けのGPU「Instinct MI」シリーズに、HBMを採用しています。
- AMD Instinct MI100:2020年に発表されたデータセンター向けGPU。HBM2を32GB搭載。
- AMD Instinct MI250X:2021年に発表されたデータセンター向けGPU。HBM2eを128GB搭載。
- AMD Instinct MI300X:2023年に発表されたデータセンター向けGPU。HBM3を192GB搭載。
これらのGPUは、NVIDIAのGPUと競合する製品として、AIやHPCの分野で利用されています。
7.3 その他のHBM採用製品 – AIアクセラレータなど
HBMは、GPUだけでなく、AIアクセラレータなど、他の製品にも採用され始めています。
- AIアクセラレータとは?:AIの処理に特化した半導体チップのことです。
例えば、Googleの「TPU(Tensor Processing Unit)」や、Graphcoreの「IPU(Intelligence Processing Unit)」など、様々なAIアクセラレータが登場しています。これらの製品の一部にも、HBMが採用されています。
将来的には、さらに多くの製品にHBMが搭載されることが予想されます。例えば、自動運転車向けのSoC(System-on-a-Chip)などにも、HBMの採用が検討されています。
8. HBMの開発企業 – メモリメーカーの動向
HBMは、主に以下のメモリメーカーによって開発・製造されています。
8.1 SK hynix – HBM開発をリード
SK hynix(エスケイハイニックス)は、韓国の半導体メーカーで、DRAMおよびNAND型フラッシュメモリで世界有数のシェアを誇ります。
同社は、HBMの開発をリードしてきた企業の一つであり、世界で初めてHBMの量産を開始しました。また、HBM2、HBM2E、HBM3の開発においても、業界を牽引しています。
近年は、AI市場の拡大を見据え、HBMの生産能力を増強しています。
8.2 Samsung Electronics – 多様なHBMソリューションを展開
Samsung Electronics(サムスン電子)は、韓国の総合エレクトロニクス企業であり、半導体メモリ事業においては、DRAM、NAND型フラッシュメモリともに世界最大のシェアを誇ります。
同社は、HBM、HBM2、HBM2E、HBM3と、各世代のHBM製品を幅広く展開しています。また、「Aquabolt」、「Flarebolt」といったブランド名で、独自のHBM製品も提供しています。
さらに、HBMとロジックダイを統合したパッケージソリューション「I-Cube」を提供するなど、関連技術の開発にも注力しています。
8.3 Micron Technology – HBM市場への本格参入
Micron Technology(マイクロン・テクノロジー)は、アメリカの半導体メーカーで、DRAMおよびNAND型フラッシュメモリで、世界有数のシェアを誇ります。
同社は、これまでHBMの開発には、あまり積極的ではありませんでしたが、近年、HBM市場への本格参入を表明し、製品開発を進めています。2023年にはHBM3 Gen2メモリをエヌビディアに供給開始したと発表しました。今後の展開が注目されます。
8.4 その他の関連企業 – ファウンドリ、パッケージング企業など
HBMの開発や製造には、メモリメーカーだけでなく、他の企業も関わっています。
- ファウンドリ:半導体の製造を請け負う企業。例えば、TSMC(台湾)は、HBMの製造において重要な役割を果たしています。
- パッケージング企業:半導体チップのパッケージング(組み立て)を行う企業。例えば、ASE Group(台湾)は、HBMの高度なパッケージング技術を提供しています。
これらの企業との連携も、HBMの開発や普及において重要です。
9. HBMの競合技術と将来展望
HBMは、現時点では最も高性能なメモリ技術の一つですが、将来的には、他のメモリ技術との競争も予想されます。
9.1 GDDR系メモリの進化 – GDDR6、GDDR7など
GDDRメモリも進化を続けており、最新規格のGDDR6では、HBMに迫る帯域幅を実現しています。さらに、次世代規格のGDDR7の開発も進められており、将来的には、一部の用途でHBMと競合する可能性があります。
ただし、GDDRは、コストや消費電力の面ではHBMに劣るため、ハイエンドGPUやAIアクセラレータなど、性能が最優先される用途では、今後もHBMが優位性を保つと考えられます。
9.2 LPDDR系メモリの可能性 – モバイル向けメモリの応用
LPDDR(Low Power Double Data Rate)メモリは、主にモバイル機器向けに開発された低消費電力のメモリです。近年、LPDDRメモリの高性能化が進み、LPDDR5やLPDDR5Xといった規格では、帯域幅も向上しています。
将来的には、LPDDRメモリが、HBMの競合となる可能性も指摘されています。ただし、現時点では、帯域幅や容量の面で、HBMが大きくリードしています。
9.3 新しいメモリ技術 – 3D XPoint、MRAMなど
近年、HBM以外にも、新しいメモリ技術が開発されています。
- 3D XPoint:IntelとMicronが共同開発した不揮発性メモリ技術。DRAMよりも高速で、SSDよりも低消費電力という特徴を持つ。
- MRAM(Magnetoresistive RAM):磁気を利用した不揮発性メモリ技術。高速かつ低消費電力で、書き換え耐性にも優れる。
これらの新しいメモリ技術は、将来的にはHBMと競合する可能性もありますが、現時点では、まだ開発段階であり、本格的な普及には時間がかかると予想されます。
9.4 HBMの将来展望 – HBM4、そしてその先へ
HBMは、今後も進化を続けることが予想されます。
現在、HBM4の開発が進められており、2026年ごろの製品化が見込まれています。HBM4では、さらなる広帯域化、大容量化、低消費電力化が実現されると期待されています。
さらに、その先の世代のHBMについても、様々な研究開発が進められています。例えば、積層数を増やすことで、さらなる大容量化を目指す研究や、新しい材料や構造を用いて、性能を向上させる研究などが行われています。
HBMは、AIの発展とともに、今後ますます重要性が増していくと考えられます。
10. まとめ
この記事では、HBM(High Bandwidth Memory)について、メモリの基礎知識から、HBMの仕組み、メリット・デメリット、AI開発における重要性、開発企業、そして将来展望まで、幅広く解説してきました
- HBMは、3D積層技術を用いて、広帯域幅、低消費電力、小型化を実現したメモリ技術です。
- 従来のメモリ技術(例:GDDR)に比べて、圧倒的に高い性能を持ち、AIの学習や推論の高速化に大きく貢献しています。
- HBMは、NVIDIAやAMDの高性能GPU、およびAIアクセラレータなどに採用されています。
- HBMの開発は、SK hynix、Samsung、Micronなどのメモリメーカーが主導しています。
- HBMは、今後も進化を続け、AIの発展を支えていくことが期待されます。
HBMは、AI時代を支えるキーテクノロジーの一つです。この記事を通して、HBMについての理解を深めていただき、AI技術の発展の裏側にある、メモリ技術の革新についても、興味を持っていただければ幸いです。
11. 参考情報
- JEDEC: https://www.jedec.org/
- SK hynix: https://www.skhynix.com/
- Samsung Electronics: https://www.samsung.com/
- Micron Technology: https://www.micron.com/
- NVIDIA: https://www.nvidia.com/
- AMD: https://www.amd.com/
これらのウェブサイトでは、HBMに関するより詳細な情報を得ることができます。ぜひ参考にしてください。
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